私の職場には前立腺癌の治療だけでなく、前立腺の容量を測る検査や、放射線治療のための準備として、前立腺に金の小粒を埋め込むために来る患者さんもいます。これらの作業は超音波室で行われ、私がドクターのアシストで入ることが非常に多いです。
超音波室の片隅にはカーテンで囲われた一角があり、患者さんたちはここで下半身裸になります。そこから出て来る患者さんが下腹部を覆って隠せるように、私はいつも紙を渡して体の前部を覆うための紙であることを示して伝えます。 これに対する患者さんの反応がなかなか興味深いのです。スウェーデン人の男性の多くは、見知らぬ異性に裸の下半身を見られることに大した羞恥心を持たず、「いやあ、こんなもの必要ないよ」などと言う人もたくさんいます。私は内心「あなたは要らないかもしれないけれど、私が見たくないのよね。ちゃんと隠して欲しいなぁ」と思うのですが、顔ではニッコリ笑って、「そうおっしゃる患者さんが多いんですよぉ」などと答えます。 その紙の使い方はちゃんと説明しているのに、理解してくれない患者さんも結構いて、何を考えているのかその紙をお尻の下に敷いたり、しっかり折り畳んで大事そうに手に持っていたり、お腹の上にのせたりする人もいます。 それに対して、異性に裸を見られることに大きな抵抗がある文化圏から来ている移民の患者さんは、その紙の使い方をしっかり理解し、正しく使ってくれます。そういう患者さんがいると、私はとても満足します。日本人の男性の患者さんにお目にかかったことはありませんが、きっとこの紙を正しく使ってもらえることでしょう。 そんな紙の使い方1つからも、文化の違いを垣間見ることができます。病院は、文化人類学者にとってはたまらなく面白いところですね。
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