2018年ノーベル医学・生理学賞に寄せて

本庶佑教授が、免疫を抑える働きを阻害することでがんを治療する画期的な免疫療法を確立し、がん治療に新たな道を開いたという功績が認められて、ノーベル医学・生理学賞を受賞しました。

私の職場では、連日このような免疫療法を投与しているので、私にとってはとても身近な話題でした。

このような免疫療法を受けている数人の患者さんから、「この治療の恩恵を受けている私にとっても、このノーベル賞はすごく嬉しい!昨日はあまりにも嬉しくって自宅でお祝いしちゃった」というコメントを頂きました。

私の職場は腫瘍内科の通院治療病棟で、連日沢山の患者さんが抗がん剤や免疫療法の治療のために訪問されます。記憶は定かではありませんが、私の職場では2013年頃より Yervoy(一般名:イピリムマブ) の投与が始まりました。当時、この薬品は25万クローナ(約300万)と設定されていて、投与の決定には病院長を含めた数人の病院幹部での会合で承認されないと投与が出来ないことになっていました。
スウェーデンでは点滴などの抗がん剤は患者さんの負担ではなく、全て公費で負担されます。患者さんの経済状況ではなく、疾患にどれだけ治療が必要か?というのが治療を決定する大きな要因です。しかし、病院としては予算もあるので、出来るだけ効果のある患者さんに薬品が使われるように配慮が必要と言う背景があります。ですから、主治医の判断だけではなく、全体の予算と治療がどれだけ有効なのか?という 「医療経済」が重要になります。

このような背景から、当時腫瘍内科の国内の学会では 「医療経済」が度々取り上げられていました。

その後、オプジーボ (一般名:ニボルマブ) 、キイトルーダ(一般名:ペムブロリズマブ)と、次々と承認され、悪性黒色腫、腎臓がん、肺がんの患者さんに使用されています。また現在は手術前のトリプルネガティブ乳癌の患者さんに対してキイトルーダ、転移のある肺がんの患者さんを対象としたAtezolizumabという薬剤の治験も行われています。

スウェーデンの場合、抗がん剤の投与は一部の病院に限られているため、その病院はかなりの数の抗がん剤を購入します。その為、薬品を扱う会社と値段の交渉も可能です。その為か、5年前に比べると免疫チェックポイント阻害剤の購入価格も少し下がったようです。そのようなことで、ここ数年は病院幹部のカンファレンスではなく、それぞれの医局毎のカンファレンスで治療方法が話し合われます。しかし、その部門での医局長のようなボスの立場の医師は予算に関しても責任があるので、医療経済も考慮しながらの決定となります。

免疫チェックポイント阻害剤は通常の抗がん剤と違い、幅広いがんに効果的と言われています。しかしながら高額な薬であるために、どの患者さんに使用すれば医療的にも経済的にも有効に使えるのか?という事を考えることが必要であると考えられています。

# Lisa Indra

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