今回は、スウェーデンの病院の深刻な病床不足の現状について報告します。
【スウェーデンの病床不足問題】
私の勤務するウプサラ大学病院外科では平日毎朝7時45分にミーティングがありますが、この時いつも問題になるのが空き病床の問題です。夜間に外科患者を他科病棟に入院させており、引き取らないといけない。本日入院予定の患者のベッドが確保できていない。とにかく今日これだけの人数を午前中に退院させないと回らない、といった状況の説明が病床コーディネーターからなされます。スウェーデンの医療システムは集約医療型で、地域の基幹病院に入院や手術が必要な患者を集約させるのですが、それらの病院で病床が慢性的に不足しております。これは物理的な部屋数ベッド数不足のみならず、勤務する看護師、准看護師数が不足しているという問題があります。さらに、6月-8月にはスタッフが大量に夏季休暇を取るため、病棟の稼働能力は文字どおり半減します。
【病床不足危機は年々悪化している】
スウェーデンには全国規模の医師労働組合が存在しますが、その会報の最新号の表紙の見出しは「北から南まで、病床不足の危機は悪化するばかり」でした。その内容について要約します。
今回の報告で取り上げられていた町と病院は、Sollefteå、 Örebro、 Göteborg、 Helsingborgでした。
Sollefteåという北部の町の小さな病院で、救急外科外来と外科病棟、出産外来が閉鎖されました。それ以降、必要がある患者、妊婦がSundsvallという町の病院まで行かないといけなくなったのですが、この距離が片道120kmです。また、術後の退院が早急すぎて、200kmの道のりをタクシーでSundsvallに戻ったという例がありました。
Örebroの病床不足の状況もこの5年で悪化してきました。外科では、ウプサラの外科と同様の報告が日々なされているとのことです。「入院ベッドを確保するために専門医が繰り返し電話をしなければいけなかったり、手術がキャンセルされたりなど難しい状況になってきた。仲間内でもフラストレーションが溜まってきて、病院上層部に助けを求めたが、自分たちで解決するようにという回答だった。どうやって解決すればいいんだ?30年勤めてきたが、昔は口笛吹きながら自転車通勤してきたが、最近は色々考え事をしながら自転車をこいでおり、あまり楽しい気分になれない。病床不足問題は、患者の安全の脅威であるとともに、職場環境悪化の原因でもある。各部署長による病床会議も頻回に開かれるが、病床不足が解消されるわけでもない。ただ、病床コーディネーターには本当にお世話になっている。」と医師は現状を訴えておりました。
Göteborg大学病院の救急外来も問題を抱えています。看護師等への負担が増してきて離職率が高くなってきた。さらに県が派遣業者からの看護師の受け入れを中止するという決定を下して状況はますます悪化した。そして、救急外来で数日待たされた患者が発生するという、まさにカオス的状況となっている。これらの患者の安全性への問題をIVO (医療福祉監査局、医療の質と安全を担保するための政府の組織)が現在調査中ということです。ちなみにこの病院では、今年3月に人員不足と手術室、集中治療室(ICU)のキャパシティー不足という理由で100例の悪性腫瘍手術等を除く緊急性のない手術予定がキャンセルされました。
Helsingborgからの報告では、スコーネ地方の人口に見合っていなICUの病床数問題が取り上げられていました。人口が増加傾向なのにICUの病床数は逆に減らされ、病床不足が原因である死亡症例も発生しました。病床不足による通常病棟への早急すぎる移動措置が憂慮されています。地域の各病院は助け合っているが、行政の担当者の責任の所在が曖昧であるとのことです。
このように、スウェーデン全土で病床不足、人員不足とキャパシティー不足、それに伴う患者の安全性への問題が年々深刻化しておりますが、これらの病院を運営する県(ランスティング)の対応も不十分というのが現状です。
#VL
Birdwatcher April 18, 2017
連休中の執筆お疲れ様でした。レポート拝読しました。深刻な問題はストックホルムのLandstingだけのものではないことがよくわかりました。ショックです。実は私がカロリンスカで最初に勤務した、RadiumhemmetのP51という入院病棟は、看護師が9割以上ドッと辞めてしまったのが原因で閉鎖されました。誰からも素晴らしい病棟だと褒められていたP51が消滅してしまったのは非常に残念なことでした。辞めて他の病院に勤めた看護師さんの中に、結局カロリンスカに戻って来た人たちが何人もいるので、大学病院の仕事に魅力を感じている医療従事者は多いのではないかと思います。辞めた看護師さんたちの多くは、業務内容に不満があったのではなくて、労働環境の悪化に心身ともに疲れていた人が多かったのです。
Staff VL April 18, 2017
コメントありがとうございます。外科系では特に手術室のスタッフ、器械出し看護師、麻酔科看護師、外回りなどどの大学病院も不足していて、患者も外科医も麻酔科もいて空の手術室があっても手術が開始できない、というフラストレーションがたまり、さらに患者さんの安全に大きな問題を生じる懸念がある状況が続いております。
余談ですが私の知人が手術室で働く看護師の派遣業をやってて儲かってるそうです。どうしてもスタッフが確保できない場合には派遣業者から頼らざるをえないという状況みたいですね。
Staff Birdwatcher April 18, 2017
患者さんの安全が確保できないのが、一番深刻な問題だと思います。カロリンスカ病院では「患者さん第一」などと壊れたレコードのように繰り返し言っていますが、現実とのギャップに恐ろしさを感じます。私は社会学系の研究者なので、フランクフルト学派の非常にクリティカルな視点でこの現実を論文にしたいと思ってしまいますが、医療従事者としてそれをするのは問題がありそうなので、敢えていたしませんが。医療に従事していると、仕事を1日放棄して、医療の改善を目指してデモでもやろうということもできませんね。それより職場で患者さんのために働こうと思いますものね。
Staff Lisa Indra April 18, 2017
慢性のベッド不足の一つの要因が看護系スタッフの不足だと思ってます。
TVなどで「看護師教育へ大きな予算がつぎ込まれることになりました!」と、耳にすると、溜息が出てしまう方です。いくら新人看護師を育成しても、今働いている看護師が残らなくちゃ意味ないのに、と。
水道の蛇口をいくらひねっても、バケツに大きな穴が開いていたらバケツに水はいつまで経っても溜まらないのに、と思ってしまうからです。
若い看護師さんたちは安い給料の職場には魅力を感じないでしょう。それでも新人教育がしっかりしるから…と言って就職しても、6か月ー1年ほどで別の病院に移っていく事も多々です。どうしても人が足りないから、新人ナースを少し高めの給料で雇用し、Inskolningしている3年目のナースより給料が高いっていう事も、よくある事です。
私達の直接の上司たちは、さらに上の上司に給料交渉に関しては縛られているのでなかなか自由が利かないようですが、溜息しか出ないです。?
StockholmではNKSのベッド数が減るのに大丈夫?っていう声を聞きます。が、それより前にナースがいないからその減ったベッド数でさえ100%開放することって出来ない可能性もあるのに…と、個人的には思っちゃいます。
Staff Birdwatcher April 18, 2017
Lisa Indraさん、医療制度の中で看護師さんの果たす役割はとても偉大です。私のP51が閉鎖になったのも、看護師さんがごっそり辞めてしまったから。准看護師とドクター達は残っていたのですが、この2つのカテゴリーだけでは病院は回っていかないのです。基本的に准看護師が病院では薬を扱えないこの国では、准看護師がいくらいてもダメなのですね。優秀な看護師さんを病院に引き止めるのは必須です。日本でも1990年代だったか、それより前だったか、看護師さんが他の職業を選んだり辞めてしまったりして、閉鎖に追い込まれた中小規模の病院が続出しましたが、あれはどうやって解決したのでしょうか?
Lisa Indra April 23, 2017
そうですね。
日本も絶えず、看護師不足だと思います。それでも、病院が山ほどあるので患者さんには直接影響は出ないかもしれないですね。これは私の漠然と思うことで、実際はどうなのだ変わりませんが。
私が7年間日本で働いた経験からくる実感は、日本の看護師は使い捨てに近いのかな?っていう強いです。若い子はどんどん辞めていきます。私は都内の大きな病院に勤めていたのですが、病棟に看護師長以外では20人いました。6年目の私は経験年数がその5番目。20人中17人が20歳代でした。若い看護師さんが入ってきても、どんどん辞めて行ってしまうという状況でした。それでも、人気病院だったので、入ってくる看護師は後を絶ちませんでしたが。(どうも今は違うみたいです)
33歳で若い方から3人目ということをスウェーデンで体験し、年齢層がかなり違うなーと感じました。
病床不足からかなり話が離れちゃって、済みませーん。