日本とスウェーデンにおける准看護師制度の始まり
日本では戦後1948年に看護制度の改革が行われ、新しい法律が制定されると共に、看護師の中に看護職AとBが設立された。その後1951年の改革で、看護職A は正看護師に、Bは准看護師に改定された。准看護師制度が設立された背景には、予想された正看護師の不足が挙げられる。戦前においては、看護師は単に医師のアシスタントとみなされていたが、戦後はプロフェッショナルな職業のステータスを得た。その反面、高い教育が求められたため、看護師の不足は十分予想されうるものであった。そのために、義務教育を終えた後2年間の教育を受けてなることができる、准看護師制度が設立された。
一方スウェーデンではすでに1930年代に、女性を看護職にリクルートするのが難しい状況であった。女性たちは別の職業を求めたからである。1940年代にスウェーデンの医療制度が大幅に拡大されると、看護職不足の深刻な危機が訪れた。病床数は1920年に11,000床であったのが、1946年には24,000床にまで拡大したが、看護職につく女性の不足のために、それ以上の拡大は不可能な状態であった。解決策として、それまで病院で働くことを義務付けられていた看護学生の病院勤務をなくすことによって、看護教育を半年短縮すること、そしてそれまでの看護補助者(sjukvårdbiträde)に短期間の訓練を与えて、准看護師(undersköterska)に格上げするという方策が取られた。最初の准看護師は1947年に登場した。
日本とスウェーデンの准看護師教育
日本で准看護師になるためには、主に2つの教育制度がある。1つは高校で衛生看護科に入ること。もう1つは中学校卒業後に、2年間の准看護師養成所に入ることである。どちらも修了後に都道府県の資格試験を受け、合格者には准看護師の資格が与えられる。資格は都道府県知事名で与えられるが、資格を取得した以外の都道府県で働くことは可能である。2013年の時点で、日本全国に236の准看護師養成機関があり、うち17が高等学校で、それ以外は専修学校や各種学校のカテゴリーに入っている。准看護師教育への入学条件は、9年間の義務教育を終えていることであるが、大学卒業者や社会人経験者も多く出願している。
スウェーデンの准看護師教育制度も日本と似通っており、高校で看護介護プログラム(Vård- och omsorg)を3年間取るか、成人教育の教育機関で看護プログラム(omvårdnadsprogrammet)を取る方法がある。後者の学習期間はおよそ1年半である。日本の場合と異なり、成人教育の機関で准看護師の勉強をした者に対して、国や地方自治体が認める正式な資格証はない。
医療の学術化(academization)の中の准看護師の位置づけ
日本においてもスウェーデンにおいても、准看護師の職場は病院、クリニック、介護施設、患者の家など多様である。スウェーデンにおいては、病院における正看護師と准看護師の仕事内容には比較的明確な一線が引かれており、例えば基本的に病院において准看護師は薬剤を扱わないことになっている。日本においては、准看護師の実際の仕事は正看護師の仕事と大きく異ならない場合が多いが、基本的な違いは、准看護師は医師、歯科医、看護師の指導の元に仕事をするということが挙げられる。医療技術の高度化に伴い、病院における看護職には高度に科学的で学術的な能力が求められる。そこで准看護師と正看護師の仕事内容が大きく異ならないという点に関して、1つ大きな問題点が指摘されており、日本看護協会と日本医師会の歴史的な対立を招いてきた。
日本看護協会は、准看護師教育の質は近代化された病院での勤務にふさわしい質のものではないと 指摘し、准看護師制度を廃止して正看護師制度に一本化することを主張してきた。しかしながら、准看護師養成機関には、各地域の医師会によって運営されているものが多く、准看護師学校の学生は卒業と同時に、学校の運営母体である医師会が経営している病院やクリニックに勤務する事例が多い。またお礼奉公をさせられるような例も挙げられている。日本看護協会は、医師会が准看護師を安く雇用してきていることを批判し続けている。2004年には、10年以上准看護師として勤務した者が希望すれば、2年間の通信教育を経て正看護師に格上げされるという制度ができ、日本看護協会はこの制度を利用しようとする准看護師の支援をしており、2009年からは奨学金も設立された。
一方医師会は、正看護師、准看護師、看護補助者の3層から成り立つ医療制度の重要性を主張している。医療機関の中には、小規模な地域のクリニック、大病院、高度で近代的な設備を整えた大学病院などがあり、それぞれの医療機関では異なるタイプの看護スタッフが必要とされており、准看護師は小規模な地域の病院やクリニックで、重要な役割を果たしていると主張している。加えて、高齢化社会の中で准看護師へのニーズは高まっていることも主張している。しかしながら、全体的に正看護師の数が順調に増加しているのに対し、准看護師の数は減少しつつある。
スウェーデンにおいても、正看護師と医師の数が順調に増加しているのに比べ、医療機関における准看護師の数は減少しつつある。この背景には3つの要素があり、第一にエーデル改革によって医療と介護が分けられ、医療機関では介護の面が縮小し、医療の面が強まったこと。第二に新しい医療方法によって患者の入院日数が減り、病院における介護の必要性が減ったこと。第三に予算削減の中で、職業教育を受けた者よりもアカデミックな教育を受けた者の雇用が優先されるようになったことが挙げられる。
今後の准看護師
日本においてもスウェーデンにおいても、医療機関における准看護師のニーズと雇用は減少しつつあるとはいえ、完全になくなることはないと予想される。日本においては、特に小規模の地域の病院やクリニックでは、准看護師は重要な役割を果たしている。スウェーデンにおいても、高度に専門化された大学病院でも、入院患者の介護をする准看護師は必要とされている。
一方で、医療機関以外の介護や福祉機関で働く准看護師の数は、順調に増加している。日本においては、病院勤務の准看護師の数は2004年から2012年の間に40,794人減少したが、長期介護施設勤務の准看護師は、同じ時期に18,229人増加している。スウェーデンにおいても、自治体に雇用されている准看護師の数は、2010年から2013年の間に7,572人増加している。
このように、患者に近く寄り添った介護の分野で、准看護師のニーズは絶え間なくあると同時に、高齢化社会において高齢者の介護における准看護師の役割はますます重要になると思われる。
#Birdwatcher
Green Lover April 3, 2017
Birdwatcherさん、貴重な情報をありがとうございます。日本の准看護師システム、はっきりと理解していなかったので、とても勉強になりました。私の職場でのundersköterskaさん達は本当に重要な仕事を担っています。採血やバイタル、手術創のケア、ストーマのケアなど様々な業務をこなしています。一応看護師からの指示を受けて動くのが基本ですが、業務はかなりの部分ルーチン化されているので、自発的にどんどん動き、ストーマのケアなどは看護師よりも経験を積む場合も多いので、こちらがアドバイスを受けることも多々あります。
Birdwatcher April 9, 2017
Green Loverさん、コメントをありがとうございます。私自身が准看護師なので、色々な人からどうして看護師にならないのと聞かれますが、私は准看護師の仕事はとても面白いと思ってきました。今は治療のセクションにいて、担当業務がルーティン化している面がありますが、看護病棟の仕事は本当に日々様々で、とても楽しかったです。Green Loverさんがおっしゃるような仕事を私も毎日していました。私のセクションには若くて経験の浅い看護師さんが多かったので、私自身経験は浅かったのですが、年が上な分お姉さんみたいな感じで接してもらっていました。”あの患者さんの採血うまくいかなかったからやってくれる?”とか、”お腹空いちゃったから先にご飯食べてもいい?”などと言われると、ハイハイとちょっとお姉さんぶった返事をしたりして、とても楽しく仕事をしていました。医療は楽しいですね。